大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和60年(ワ)3615号 判決 1988年3月14日

原告別紙選定者目録記載の各選定者の選定当事者

吉田満

右訴訟代理人弁護士

佐古祐二

青山吉伸

太田稔

鬼追明夫

吉田訓康

辛島宏

安木健

的場俊介

松田繁三

被告

健友株式会社代表取締役佐々孝之こと

佐々孝之

被告

佐々孝夫

被告

山脇道令

右三名訴訟代理人弁護士

平井勝也

主文

一  被告らは各自、原告に対し、金七〇〇〇万円及びこれに対する昭和六〇年五月二四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁(被告ら)

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 原告を選定当事者とした選定者ら(以下「選定者ら」という。)は、いずれも個人であり、そのほとんどの者が店舗を持たず、店舗を持つごく一部の者もいずれも健康自然食品に関する店舗を持つものではない。したがって、選定者らは、いずれも健康自然食品の商取引に関する知識や経験を持たない無店舗個人である。

(二) 被告健友株式会社代表取締役佐々孝之こと佐々孝之(以下「被告孝之」という。)は、健友生協共済事業協会(統括本部)健友株式会社代表取締役の肩書を用いるものであるが、健友生協共済事業協会は団体としての組織、運営、財産管理等についての確定的な取り決めを持たず、かつ、生協(消費生活協同組合)としての認可手続を経由しておらず、また健友株式会社は、未登記でかつ設立準備中の会社としての実体すらない。

(三) 被告佐々孝夫(以下「被告孝夫」という。)は、被告孝之の父であって、一八年間マルチ商法に携わってきた者であり、人から言葉巧みに金員を騙取することにかけては天才的な能力と豊富な経験の持ち主であって、昭和五五年五月には詐欺罪で有罪判決を受けたことがあり、健友生協共済事業を始める時点では稲田薬品工業株式会社に対する約一七五〇万円の商品代金債務など多額の借金を負っていた。

(四) 被告山脇道令(以下「被告山脇」という。)は、ゲーム機会社の経営に関与していたが、同社の倒産により約一二億円の負債を有する者で、被告孝之及び同孝夫の詐欺行為を会計担当者として幇助した者である。

2  不法行為(詐欺)

被告らは、健友生協共済事業に関する権利資格取得金名下に金員を騙取しようと企て、昭和五九年一一月以降、別表(四)記載の各会場において、社員募集等のチラシによって集めた選定者らを含む多数の参加者に対し、真実は右事業を実現する意思がないのにこれあるもののごとく装い、「私は二〇年間生協作りに携わってきた者で、医療器を扱う資本金三二〇〇万円の株式会社の代表取締役であるが、愛と協調をキャッチフレーズに生協の全国組織を結成して衣食住の全国チェーンをつくる健友生協共済事業協会の会長である。その統括本部は資本金一億円の健友株式会社であり、健友協会には健康関連の企業が現在三五〇社加盟している。富山の置き薬方式のように各家庭に自然健康食品をワゴンに入れて無料で配置し、定期的に各家庭が消費した商品をチェックし、その代金を後日銀行口座で引き落とすという無店舗販売を当地でも実施する。他人に真似ができないように、この事業の一定の地区での販売流通の権利を特定の人に持ってもらうやり方をとる。すなわち人口三〇万人の地区に一人の県配送センター、その傘下の人口三万人の地区に一人の市配送センターを作り、更に市配送センターの下には町配送センターを一市につき二〇人作る(ただし、当初の説明では二〇人であったのが、後の説明では三〇人としている。)。一人当たり一〇〇軒の家庭にワゴンを設置する。県配送センターの権利を取得すれば、人口三〇万人の特定の地区において健友の商品を扱う独占権が与えられるし、市配送センターの権利を取得すれば人口三万人の特定の地区において健友の商品を扱う独占権が与えられる。町配送センターの仕事は定期的に各家庭を訪ねて、消費分をチェックし、商品の補充と集金を行うことであり、これは酒屋や米屋等小売のプロにお願いする。町配送センターは本部のほうで確実に集める。一気にできるようになっている。県配送センターになる人には五〇〇万円(後に六〇〇万円に増額)、市配送センターになる人には二〇〇万円(後に三〇〇万円に増額)を、権利資格取得金として出してもらう。県配送センターの人には、その権利地区内の市配送センターの出す権利資格取得金の五パーセントと町配送センターの出す権利資格取得金の1.5パーセントを共済金として支給する。市配送センターの人には、その権利地区内の町配送センターの出す権利資格取得金の一〇パーセントを共済金として支給する。また、他地区内の県配送センター、市配送センター、町配送センターを勧誘してもらえば、その権利資格取得金の一〇パーセントを支給する。少なくとも支出した権利資格取得金と同額かそれ以上の金額の共済金が戻る。そのうえ、一定割合の共同購入コミッションとして相当の収入が確実に入る。必ずもうかる事業である。」などと虚構の事実を言葉巧みに申し向け、県配送センターと市配送センターの権利資格の取得を勧め、真実は実現不可能でかつ実現する意思もないのに、選定者らをして、右流通システムが必ず実現されて相当の利潤を獲得できるだけではなく、自己の出資する金員以上の金員を共済金名目で獲得できるものと誤信させ、よって、昭和五九年一一月一五日から昭和六〇年三月二六日までの間に、別表(一)記載のとおり、選定者らから総額一億六〇〇五万円にのぼる金員を交付させてこれを騙取し、選定者らに同額の損害を与えたものである。

なお、民事裁判において、直接的に欺罔意思を立証することは困難であり、不法行為が成立するためには詐欺的不法行為で足りるというべきであり、当該商法の違法性すなわち健全な社会の取引観念上許容される範囲を逸脱することが立証されれば十分である。

3  詐欺的不法行為

以下のことから、被告らの前記権利資格取得金名下に多額の金員を集めた行為(以下「本件商法」ということがある。)は詐欺的不法行為であることが明らかであり、その違法性すなわち健全な社会の取引観念上許容される範囲を逸脱することが明白である。

(一) 本件自然健康食品の販売システムの実現が不可能ないし著しく困難であったことについて

(1) 被告らが、前述のように立案した自然健康食品の販売システム(以下「本件販売システム」という。)は、子(市配送センター)や孫(町配送センター)ができることによって、共済金を取得できるというもので、その本質はマルチ商法であり、健康食品の販売は、いわばえさで、マルチ商法の規制を脱法しごまかすための隠れみのにすぎない。

(2) 健康食品には安全性や変敗しやすさといった問題や、衛生問題、表示問題等が指摘されており、また各人の嗜好は様々で実際にどれだけ販売できるかは大いに疑問である。

(3) 被告らの構想では、人口三万人の地域(市)に二〇ないし三〇の町配送センターが一気にでき、一つの町配送センターが一〇〇軒の家庭にワゴンを置き、二ないし三〇〇〇軒の家庭を得意先にするということであるが、一家庭三人とすると、人口三万人のうち、六ないし九〇〇〇人の人々が、健友の商品を日常的に購入し使用することになるが、これは事実上不可能である。

(二) 被告らには本件販売システムを実現する意思が存在しなかったことについて

(1) 被告孝夫が、前述のように、各会場において、多数の参加者に対し行った説明(以下「トーク」という。)では、「私は約二〇年間生協の組織作りをやってきた。」と言っていたが、前述のように実際はマルチ商法一筋に生きてきた人物であり、その経歴及び前科並びに本件販売システム失敗後、九州でも同様のシステムによる事業を失敗したことからすれば、被告孝夫には実際に事業を実現させる意思も能力もなかったことは明らかである。

(2) 被告らは、選定者らから集めた権利資格取得金を、本件販売システムの事業資金として使用せず、その大部分を新たに権利資格取得金名下に多数の者から金員を吸い上げていくために要するチラシ代、権利証代、会場費代、交通費及び生活費等に使用した。

(3) 被告らは、仕訳帳、元帳などの整備された商業帳簿を一切作成していなかったし、本件販売システムの事業計画書も作成していなかった。

(4) 被告孝夫は、現実の健康食品の販売を開始する時期について、一貫性、計画性がなく、また同被告は、実際の商品の仕入れや流通に関しては必要な得意先も全く知らず、現実化しうるだけの経験も能力もなく、本格的な仕入れ交渉等販売のための準備に着手しなかった。

(三) 勧誘方法の違法性について

(1) トークによれば、被告らは、全国生協を作ると言いつつ目的はもうけることにあるという。しかし、もうけることが目的の組織は生協として認められないし(消費生活共同組合法一条及び九条)地域生協は都道府県単位を越えては作れないことになっている(同法五条)。被告らの目指すものが連合体のそれであれば現行法下でも可能であるが、既に連合体の全国組織として日本生活共同組合連合会が存在している。このように被告らが、生協の名を用いることは全く不当である。本件販売システムは、本質的に生協と相容れないもので、生協として認可されるはずもなく、被告らは、実際には生協を作る意思がなかったにもかかわらず、被害者らを信用させ安心させるために、チラシ、パンフレット、契約書等に生協、CO―OP(生活協同組合の商標)の表示を冒用し、説明会場で生協作り二〇年などと偽ったものである。

(2) 被告らは、健友全日本共済事業協会、日本保健協会といった、一見公益的事業らしい表示も使用しているが、全く実体のない団体である。

(3) トークでは、資本金一億円の健友株式会社が、健友のすべてを統括していると述べているが健友株式会社は、会社として設立されておらず、設立中の会社としての実体すらない。

(4) 被告らは、チラシやトークなどによって健友協会には現在三五〇社の健康関連企業が所属しており、これが団結して健友製品の供給団体を作っていると説明しているが、これは全くの虚偽である。

(5) 説明会場では、既に他の地区では事業が軌道に乗っているとの虚偽の説明をしている。

(6) 新聞折り込みのチラシにおいては、独立、転業、多角経営、サイドビジネス、パート、アルバイトとして、配送、内職、社員大募集としており、これらを希望している多くの人々を説明会場に呼び寄せているが、実際に契約させるのは県配送センターと市配送センターのみであった。

(7) 説明会場の垂れ幕では「利益◎」と表示し、トークでは、実際の商品売買に伴う利益だけではなく共済金として支出した金員は開業以前に戻ってくる旨説明し、利益の確実性を強調しているし、さらに契約時に交付される権利資格保証書では、「額面金一億円(譲渡可)」(県配送センターの場合)、「額面金三〇〇〇万円(譲渡可)」(市配送センターの場合)、「健友生協共済事業の権利資格について、裏面条件に従い、上記のとおり保証いたします。」と記載されているが、実際には右資格について換価性がないにもかかわらず、右のような換価性と値上がりを保証している。

4  共同不法行為の成立

(一) 本件詐欺的不法行為において、被告孝夫は、その首謀者であり健友協会の会長として全般につき推進者の役割を果たし、被告孝之は健友株式会社の代表取締役として、被告山脇は会計等として、その組織の重要部分を担って右不法行為に荷担したものであり、以下のように、被告らには違法性の認識及び互いに利用関係にあることの認容があること、並びに行動の一体性に鑑みると、被告らに共同不法行為が成立することが明らかである。

(二) 被告ら三名は、いずれも自らは権利資格取得金を出捐せず、当初より一貫して常に騙す側で一体として行動してきた。

(三) 被告孝之は、被告孝夫と親子であり、当初は健友全日本共済事業協会関西連合会本部代表、その後は健友生協共済事業協会(統括本部)健友株式会社代表取締役の肩書を使用しあるいは使用することを承諾認容し、権利資格保証書その他に代表者として顕名し、常に被告孝夫のサポートによって最高責任者たる地位にあり、被害者から受け取った金員は同被告名義の預金口座に入金され、実質的に被告ら三名がこの金員を保管していた。被告孝之は、被害者の前では、医師の免許がないにもかかわらず、医師であるかのように振る舞い、「健友会館を作って医療と保健活動に貢献する。」などと述べた。健友という健康関連事業を標ぼうしていた本件商法にあっては、その代表者が医師であると思わせることは、その成功にとって重要な一要素である。

被告孝之は、本件商法の違法性について認識認容していながら、右のように最高責任者たる地位で当初より被告孝夫と一体として行動し、九州にまで一緒に金員を持って逃げたものである。株式会社においては、代表取締役はたとえ名目的な代表取締役であっても、対外的に商法二六六条の三の責任を追及されるのであり、本件において被告孝之が果たした役割、被告孝夫との一体性からして、共同不法行為責任を問いうることは明白である。

(四) 被告山脇は、当初より健友の経営に参画していたのであって、専務取締役の地位にあり、会計を担当し、実際の契約にも多数関与しており、また説明会場の選定、段取りを担当してきたものであって、本件商法の違法性について認識認容していたにもかかわらず、何ら被告佐々親子に積極的な助言をせず、幇助してきたものである。被告山脇は、昭和六〇年三月、会計明細の開示と金員の返還を他の被告らとともに約束し、その直接の担当者としてこれを履行すべき立場にあったにもかかわらず、これを無視し、他の被告らと共に金員を持って九州へ逃げたものである。

5  選定者らの一部の者は、組織拡大に関連して別表(二)記載の額の金員をそれぞれ回収しているので、この限りで損害を回復していると考えられるので、これを損益相殺すると、選定者らの実質的な被害額は別表(三)記載のとおりである。

6  よって、選定者らは原告を選定当事者として、被告らに対し、各自、共同不法行為に基づき、別表(三)記載のとおりの損害金の内金七〇〇〇万円及びこれに対する不法行為の後である昭和六〇年五月二四日(訴状送達の翌日)から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否(被告ら)

1(一)  請求原因(一)の事実は認める。

(二)  同(二)の事実のうち、被告孝之が健友生協共済事業協会(統括本部)健友株式会社代表取締役の肩書を用いたこと、健友生協共済事業協会は生協(消費生活共同組合)としての認可手続を経由していないこと、健友株式会社は未登記であることは認めるが、健友生協共済事業協会は、団体としての組織、運営、財産管理等について確定的な取り決めを持たなかったこと、及び健友株式会社は設立中の会社としての実体すらないことは否認する。健友生協共済事業協会は、健友サクセスプログラムを作成し、これに基づきその事業を開始していたし、健友株式会社は、本店事務所を賃借し、設立後の役員も決定しており、発起人予定者の印鑑証明書も集まりつつあり、生協の販売商品の中心をなす健康食品の仕入れ及び販売に関する役員会が持たれ、仕入れ交渉等が既に行われており、実質的に会社運営がなされていた。

(三)  同(三)の事実のうち、被告孝夫は被告孝之の父であること、被告孝夫は詐欺罪で有罪判決を受けたことがあることは認めるが、その余の事実は否認する。

(四)  同(四)の事実のうち、被告山脇が、設立中の健友株式会社の会計を担当していたことは認める。

2  請求原因2の事実のうち、被告らが、昭和五九年一一月以降、別表(四)記載の各会場(昭和六〇年三月二六日と同月二七日開催分は除く。)において、選定者らを含む多数の参加者に対し、本件販売システムについて説明し、県配送センターや市配送センターの権利資格の取得を勧めたこと、昭和五九年一一月一五日から昭和六〇年三月二六日までの間に、別表(一)記載のとおり、選定者らから総額一億六〇〇五万円にのぼる金員の交付を受けたことは認めるが、被告らが健友生協共済事業に関する権利資格取得金名下に金員を騙取しようと企てたこと、右事業は実現不可能であること、被告らには右事業を実現する意思はなかったこと、説明会場において虚構の事実を述べたこと、選定者らからの金員の交付が騙取にあたり、選定者らに同額の損害を与えたこと、並びに説明会場において「私は二〇年間生協作りに携わってきた者で、医療機を扱う資本金三二〇〇万円の株式会社の代表取締役である。」、「健友協会には現在三五〇社が加盟している。」と述べたことは否認する。

3  請求原因3冒頭の事実は否認し、主張は争う。

(一) 同3(一)の事実のうち、本件自然健康食品の販売システムの実現が不可能ないし著しく困難であったことは否認する。健康食品は販売商品としていまだ難しく、一般化された商品ではないが、利益率の高い商品であるので、本件販売システムが継続し普及すれば、大成功を収めていた可能性が十分ある。

(二)(1) 同3(二)の事実のうち、被告らには、本件販売システムを実現させる意思も能力もなかったことは否認する。

(2) 同3(二)(1)の事実のうち、被告孝夫が各会場におけるトークで「私は約二〇年間生協の組織作りをやってきた。」と述べた事実は否認する。

(3) 同(2)の事実のうち、選定者ら以外の者からの分も含めて権利資格取得金として交付を受けた金員のうち、約一億〇八〇〇万円を開発費、家賃費、会場費及び印刷費等に支出したことは認める。

(三)(1) 同3(三)(1)の事実のうち、勧誘の際、生協の名称を使用したことは認めるが、被告らが生協を作る意思がなかったことは否認する。

(2) 同(3)の事実のうち、健友株式会社が登記されていないことは認めるが、設立中の会社としての実体はないこと及びトークで資本金一億円の健友株式会社があると述べたことは否認する。資本金一億円の健友株式会社を作ると述べたにすぎない。

(3) 同(4)の事実のうち、健友協会には現在三五〇社の健康関連企業が所属していると述べたことは否認する。現在三五〇社を加盟させることができると述べたにすぎない。

4  請求原因4の被告ら間に共同不法行為が成立するとの主張は争う。

(一) 同4(三)の事実のうち、被告孝之は、被告孝夫と親子であり、健友生協共済事業協会(統括本部)健友株式会社代表取締役の肩書きを用いたことは認めるが、本件商法の違法性について認識認容していたこと、被告孝夫と共に選定者らの出捐による金員を九州に持ち逃げしたことは否認する。

(二) 同4(四)の事実のうち、被告山脇が、会計を担当していたことは認めるが、本件商法の違法性について認識認容していたこと、他の被告らと共に選定者らの出捐に係る金員を持って九州へ逃げたことは否認する。

(三) なお、被告孝夫が、九州へ持ち出した金員は選定者ら以外の者の出捐に係るものであるし、右持ち出しについては、被告孝之や被告山脇は被告孝夫と共謀していない。被告孝之及び被告山脇は被告孝夫の従業員として行動しており、自ら物事を決定する権限はなく、共同不法行為者であるとはいえない。

5  請求原因5の事実は認める。

三  被告らの主張

1  被告佐々親子は、金員を詐取しようとしたものではなく、本件販売システムを実現させようと、健友共済事業及び健友株式会社の設立準備を進行していたのであるが、選定者らを含む多数の者が、被告佐々親子の方針を不満として、昭和六〇年三月二三日、被告佐々親子の追放と、森川佳英を中心として以後運営することを決定したため、被告佐々親子は関西や中国地方における本件販売システムからの手を引き、九州で同様の仕事を行うこととし、右森川に対し、事業の引継ぎとして当面の運営費三〇〇〇万円を交付し、そのほか家賃等の必要経費の支払をしたものであり、本件販売システムが実現しなかったのは、途中における森川らの反乱により挫折したためである。

2  その後、右森川や選定者らの一部が中心となって関西健友株式会社(後に株式会社シアールに商号変更)が設立され、本件販売システムと同様の事業を自ら継続して実施しており、このことからしても被告らの行為を詐欺行為とみるのは妥当でないといわざるを得ない。

3  選定者らのうち、吉田満は健友生協共済事業協会の常任理事の、田中耕造は同協会常任理事兼健友株式会社常務取締役の肩書を用い、健友株式会社の事務所で役員として執務しており、また他の選定者らの多くの者も度々同事務所に来て活動し、別表(四)記載の説明会に出席し、新たな権利資格取得金の出資者の獲得に努力してきた者であるので、原告の主張のように、被告らが加害者で不法行為者ならば、選定者らも一方では被害者であるが他方では加害者ということになり、選定者らの中にも多数の共同不法行為者がいることになり、被告らのみに不法行為責任を追及するのは理屈が通らぬ主張といわざるを得ない。

四  被告らの主張に対する認否反論

1  被告らの主張1の事実のうち、選定者らを含む多数の者が被告佐々親子の方針を不満として、昭和六〇年三月二三日、同被告らの追放を決定し、同被告らは関西や中国地方における本件販売システムから手を引いたことは認めるが、被告らに本件販売システムを実現させる意思が有り、右出来事によりその実現が挫折したことは否認する。なお、選定者らは、被告孝夫が約束の自然健康食品の販売開始時期近くになっても一向にその準備に着手せず、他の者が販売開始の具体的行動に出ようとするのを阻止することなどから、同被告には実際に販売を実現する意思も能力もないことが徐々に分かり、被告佐々親子を追放したものである。

2  同2、3の主張は争う。

第三  証拠関係<省略>

理由

一(当事者関係)

1  請求原因1(一)の事実は当事者間に争いがない。

2  同(二)の事実のうち、被告孝之が、健友生協共済事業協会(統括本部)健友株式会社代表取締役の肩書を用いたこと、健友生協共済事業協会は、生協(消費者生活共同組合)としての認可手続を経由していないこと、健友株式会社は未登記であること、同(三)の事実のうち、被告孝夫は被告孝之の父であること、被告孝夫は詐欺罪で有罪判決を受けたことがあること、同(四)の事実のうち被告山脇が会計を担当していたことは当事者間に争いがない。

3  <証拠>を総合すれば、被告孝夫は、長年にわたり訪問販売やマルチ商法に携わってきた経歴を有し、昭和五五年五月には、自分の経営していた衣料品販売会社の卸店を募集した際、実際に卸店が商品を卸す小売店を確保できるあてがないのに、あたかも同会社の卸店になれば直ちに必要な小売店が確保され、容易に利益を得ることができるかのように言葉巧みに虚構の事実を告げて、卸店となろうとする者から合計一八〇〇万円(内二五〇万円分は小切手)を騙取したとして、詐欺罪により懲役二年六月、執行猶予三年の判決を受けたこと、昭和五九年当時はイオンマットや羽毛布団の販売に携わっており、本件事業を始める時点では、稲田薬品工業株式会社に対する商品代金債務など多額の負債を負っていたこと、被告山脇は昭和五六年に郵便局を退職後、ゲーム機会社の代表取締役に就任したが、同社が倒産したために、昭和五九年当時は被告孝夫らと共にイオンマットや羽毛布団の販売に携わっていたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

二(健友生協共済事業の内容等)

<証拠>を総合すれば、次の事実が認められ、これを左右するに足りる証拠はない。

1  被告孝夫が中心となって立案し、被告らなどが推進してきた健友生協共済事業(以下「本件事業」という。)の内容は次のとおりである。

(一)  富山の置き薬方式のように各家庭に自然健康食品をワゴンに入れて配置し、定期的に各家庭が消費した商品をチェックしその代金を徴収するという方法で自然健康食品を無店舗で販売する。それに加えて、健康関連商品をカタログ販売する。

(二)  特定の人に右事業の一定の地区内の流通販売の独占権を与え、それに対し同人から権利資格取得金を拠出してもらう。すなわち人口三〇万人の地区に一人の県配送センター、その傘下の人口三万人の地区に一人の市配送センター、その傘下に二〇人(後のトークでは三〇人としている。)の町配送センターを設置し、一人の町配送センターあたり一〇〇軒の家庭にワゴンを設置する。権利資格取得金として、県配送センターになる人には五〇〇万円(後に六〇〇万円に増額)、市配送センターになる人には二〇〇万円(後に二五〇万円、更に三〇〇万円に増額)、町配送センターになる人には一〇〇万円を拠出してもらう(以下権利資格取得金の拠出者を「権利資格取得者」という。)。

(三)  町配送センターは米屋や酒屋等の小売のプロにやってもらい、同人が各家庭にワゴンを配置し、定期的に各家庭を訪問して消費分をチェックし、商品補充と集金を行う。

(四)  本件事業は健友株式会社が統括する

(五)  県配送センターの人にはその権利地区内の市配送センターの出す権利資格取得金の五パーセントと町配送センターの出す権利資格取得金の1.5パーセントを共済金として支給し、市配送センターの人にはその権利地区内の町配送センターの出す権利資格取得金の一〇パーセントを共済金として支給する。また、他地区内の県配送センター、市配送センター、町配送センターを勧誘すれば、その権利資格取得金の一〇パーセントを支給する。更にそれに加えて、売上金の一定割合を流通手数料として支給する。

2  被告らは、昭和五九年一一月以降、別表(四)記載の各会場において社員募集等のチラシによって集めた選定者らを含む多数の参加者に対し、被告孝夫がおおむね請求原因2記載のトークを行い、本件事業の県配送センターと市配送センターを募集し、本件事業が実現され、相当の利潤を獲得できると考えた選定者らから、県配送センター及び市配送センターの権利資格取得金として、昭和五九年一一月一五日から昭和六〇年三月二六日までの間に別表(一)記載のとおり総額一億六〇〇五万円の交付を受けた(選定者らから一億六〇〇五万円の交付を受けたことは当事者間に争いがない。)。

三(本件事業の違法性の有無)

本件事業が違法であること、すなわち健全な社会の取引観念上許容される範囲を逸脱するか否かについて検討する。

1  本件販売システムの実現の可能性及び被告らの実現意思について

<証拠>を総合すれば、次のとおり認定判断することができ、これを左右するに足りる証拠はない。

(一)  そもそも被告らの構想では人口三万人の地域に二〇ないし三〇の町配送センターができ、一つの町配送センターが一〇〇軒の家庭にワゴンを置く、つまり人口三万人の地域のうち、二ないし三〇〇〇軒の家庭を得意先にするということであるが、それは人口と客数との割合からして困難と考えられる。

(二)  本件事業は被告孝夫が中心となって発案し、推進してきたものであるが、同人は説明会で集めた人々を前にトークを行い、県や市配送センターへの勧誘はするが、本格的な仕入れ交渉等商品販売のための準備を全くしなかった。また、同人は商品販売の時期について最初昭和六〇年三月と言っていたが、その後同年五月、九月と後退し、権利資格取得者らの突き上げにより、同年三月一〇日の会議において同年六月発売と決定したが、それに至る具体的計画については明らかにできず、同人は販売開始時期について一貫した構想を持っていなかった。

(三)  被告らの資産は皆無であり、前認定のとおり被告孝夫には多額の負債があり、しかも被告孝夫は健康関連商品の会社と以前取引は有ったものの、現在は代金不払により取引を停止されている状態であって、被告らは、現実に健康関連商品の仕入れ先のめどは十分たっておらず、本件事業は、設備、資金、信用並びに仕入れ先及び得意先のいずれの面においても、いわば白紙の状態から出発したものであり、選定者らなどから集めた権利資格取得金が唯一の活動資金であった。

(四)  被告らは、選定者らや他の者から権利資格取得金として合計約二億円の金員を集めたが、その半分以上の金員を、新たな権利資格取得金の出捐者を獲得するためのチラシ代、会場費代、説明会に同行した権利資格取得者に対する日当及び交通費、並びに事務所の権利金や家賃などに費消し、右金員を後記モデル販売を除き、商品の仕入れ及び配送、ワゴンの設置、補充商品の準備やカタログの作成など本件事業に直接関連する用途に使用しなかった。

(五)  本件事業は各家庭にワゴンを配置して健康食品を販売することにより利益を上げるというものであり、本件事業が成功するためには、実際に各家庭にワゴンを置きかつ定期的に各家庭を訪問して消費分をチェックし商品の補充と集金を行う町配送センターを確保し、かつ、同人らの手によりワゴンを置いてもらえる家庭を確保することが、非常に重要であり、しかも被告孝夫はトークで町配送センターを確実に集め、一気にできるようになっていると説明しているにもかかわらず、町配送センターになる人は少なくとも一〇〇万円の出資金が必要であり、容易に確保できるとは考えられず、実際には町配送センターを確保する努力すらしておらず、確保できるあてもなかった。

(六)  被告孝夫の反対を押し切り、森川佳英(以下「森川」という。)が中心となって、昭和六〇年二月から岸和田でモデル販売として、約六〇軒の家庭にワゴンを設置した以外には、ワゴンの設置及びそれを設置する家庭を確保するための努力をしなかった。

(七)  被告らは、金銭出納帳は作成していたが、仕訳帳や元帳などの商業帳簿を作成していなかったし、本件事業の事業計画書も作成していなかった。

2  勧誘方法の違法性について

<証拠>を総合すれば、次の事実が認められ、これを左右するに足りる証拠はない。

被告らが、本件事業の県や市配送センターになる人を獲得する方法の概要は、多数のチラシ(甲第五八号証の一ないし一九)を配布して、別表(四)記載の市民会館等公共施設内で行われる説明会に人を集め、主として被告孝夫が、垂れ幕(検甲第一ないし一一号証)を用いるなどして、本件事業や扱う商品の説明(トーク)を行い、アンケートを書かせて県や市配送センターに興味を持つ者を選別し、同人らにパンフレット(甲第六〇号証)を配布し、翌日の面接時間を決め、その面接の場で森川らが個別面接を行って勧誘し、県や市配送センターの契約を成立させる、というものである。右勧誘方法には次のとおり、不当な点が存在する。

(一)  チラシの見出しには、独立、サイドビジネス、パート、アルバイト等として、配送、内職、社員大募集と記載されており、全体の内容からしても社員やアルバイト等の募集であるとの印象を与え、これらの仕事を希望する多数の人々を説明会場に呼び寄せたが、実際に契約するのは、権利資格取得金を支出する県及び市配送センターのみであり、しかも同人らには配送業務の仕事はなく、説明会に同行することにより収入を得ることができるにすぎない。

(二)  右チラシには健友協会として、数社の会社名及び公益的団体との印象を与える日本保健協会、健友自然食生協会等の記載があるが、いずれも実体のない団体や、被告孝夫が過去に取引をしたことがある会社にすぎない。

(三)  説明会場で用いる垂れ幕やパンフレット並びに契約書には生協やCO―OP(生活共同組合の商標)の表示を使用し、トークでは「私は二〇年間生協作りに携わってきた。もうけることを目的として、全国生協を作る。」と述べているが、本件事業は生協として認可されておらず(この事実は当事者間に争いがない。)、もうけることが目的の組織は生協として認められないし(消費生活共同組合法一条及び九条)、地域生協は都道府県単位を越えては作れないことになっており(同法五条)、被告らの目指すものが連合体のそれであれば、既に連合体の全国組織として日本生活共同組合連合会が存在しているので、被告らが生協の名称を用いることは不当である。また二〇年間生協作りに携わってきたとのトークは虚偽である。

(四)  トークでは、資本金一億円の健友株式会社が健友のすべてを統括していると述べ、現実に一億円の資産を有する会社が存在し活動しているという印象を与える説明をしているが、健友株式会社は会社として設立されておらず、被告らの計画によると県や市配送センターの権利資格取得金の中から右一億円の資本金を支出するというものであるので、右説明は虚偽である。

(五)  トークでは、健友協会には現在三五〇社の健康関連企業が所属しており、これが団結して健友製品の供給団体を作っていると述べているが、現実に健友協会に所属している企業は皆無であり、右説明は虚偽である。

(六)  説明会場では、他の地区の県や市配送センターの人にその地区では既に事業が軌道にのっているとの虚偽の説明をさせていた。

(七)  説明に用いる垂れ幕では「利益◎」と表示し、トークでは、実際の商品売買に伴う利益だけではなく共済金として支出した金員は開業以前に戻ってくる旨説明し、利益の確実性を強調しているが、本件事業は利益が確実にあがる事業ではなかった。

3 以上の認定判断のとおり、本件事業は、客観的にみて被告らがいうような規模の県、市、町各配送センターの組織の実現自体が極めて困難なものであるうえに、被告らの能力、資力、信用をもってしては被告らがいう町配送センターや自然健康食品を確保することが不可能に近いと認められ、そして事実上も被告らは右組織の実現に向けて積極的な行動を執った形跡がなく、被告孝夫が中心となって、もっばら実現性の極めて乏しい本件事業計画への参加を虚偽や誇張した説明をするなどして不当に勧誘し、選定者らから県及び市配送センターの権利資格取得金名下に金員を出資させ、集めた金員の大部分を次の勧誘のために費消してきたものであり、これらを総合すると、被告ら(被告らがそれぞれ不法行為責任を負うか否かは後に各自につき検討する。)が選定者らから右出資金を支払わせた行為は、健全な社会の取引観念上許容される範囲を逸脱する詐欺的行為であって違法性を帯び、不法行為を構成するものというべきである。

四(被告らの主張の検討)

1  被告らは、森川を中心とした選定者らを含む多数の者が、被告佐々親子の方針を不満として、反乱を起こし、被告佐々親子が関西や中国地方における本件事業から手を引いたため本件事業が失敗した旨主張するが、そもそも本件事業の実現性が極めて乏しいものであることは右認定判断のとおりであり、被告佐々親子が本件事業を続けていても被害の拡大が予想されこそすれ、右事業が軌道にのる可能性が極めて乏しいというべきであるから、被告らの右主張は採用しない。なお、証人森川佳英の証言によれば、被告孝夫がなかなか商品の発売を開始しないため、本件事業への勧誘が詐欺的行為ではないかとの疑いを抱いた権利資格取得者らが同人らを本件事業から追放したものであることが認められる(右認定に反する被告佐々孝夫、同山脇道令各本人尋問の結果は採用しない。)。

2  被告らは、選定者らの中にも健友株式会社の事務所で役員として執務したり、説明会に出席し権利資格取得金の出資者の獲得に努力した者も多数おり、原告の主張によると選定者らの中にも多数の共同不法行為者がいることになり、被告らにのみ不法行為責任を追及するのは理屈が通らない旨主張するので以下検討する。本件全証拠によっても、選定者らの誰が具体的にどのような行為をしたか必ずしも明らかではないが、証人森川佳英の証言、被告佐々孝夫、同山脇道令各本人尋問の結果によれば、選定者らの中にも被告らと共に違法な勧誘行為に関与し、新たな出資者に対し、共同不法行為責任を負うべき者がいることが窺われるが、それだからといって被告らの責任が免責されるわけではないし、個々の被害者としては自己との関係で被告らが共同不法行為者に該当するか否かが問題なのであり、該当するのであれば被告らの責任を追及することに支障はないから、被告らの右主張は採用しない。

五(被告ら各自の不法行為責任の有無)

1  請求原因4の事実のうち、被告孝之が被告孝夫と親子であり、健友生協共済事業協会(統括本部)健友株式会社代表取締役の肩書を用いていたこと、被告山脇は会計を担当していたことは当事者に争いがない。

2  <証拠>を総合すれば、次の事実が認められ、これに反するは措信しない。

(一)  被告孝夫は、健友協会会長の肩書を使用し、本件販売システムの基本的仕組みを考案し、権利資格保証書(権利資格取得者との契約書)の案文を作成するなど中心となって本件事業を立案し、かつ、権利資格取得金を管理し多額の出金について決裁し、説明会場でトークを行うという重要な役割を果たすなど、中心となって本件事業を推進してきた者で、いわば本件不法行為の首謀者であり、被告らの能力、資産状況や信用、本件事業の内容そのもの等からして、少なくとも本件事業の実現が極めて困難であると認識していたにもかかわらず、確実にもうかるなど虚偽や誇張した説明をし、選定者らから権利資格取得金名下に金員を出資させた。

(二)  被告孝之及び被告山脇は、当初から本件事業の計画及び実行に関与してきた者で、いずれも自らは権利資格取得金を出捐せず、健友株式会社の設立後は、被告孝之は代表取締役、被告山脇は専務取締役として、その経営に関与することが予定されており、同社の設立前においても同様の肩書を用いて活動していた。

(三)  被告らは、昭和六〇年三月二三日以後本件事業から手を引き、九州へ行き、健友株式会社という名称で、被告孝之が社長、被告山脇が副社長となり、九州全域を対象とした大型生協を作るということで多額の出資金を集めたが、生協としては認可されず、その事業は失敗した。

(四)  被告孝之は、本件事業開始前から被告孝夫と同居しており、当初は健友全日本共済事業協会関西連合会本部代表、その後は健友生協共済事業協会(統括本部)健友株式会社代表取締役の肩書を使用し、権利資格保証書や健友株式会社の事務所の賃貸借契約書等に代表取締役と顕名し、社長とか先生と呼ばれており、被害者から受け取った金員は同被告名義の預金口座に入金されていた。被告孝之は、接骨の学校を卒業したにすぎず医師の免許がないにもかかわらず、被害者の前では医師であるかのように振る舞うこともあった。

(五) 被告山脇は、昭和五九年五月に被告孝夫と知り合い、同被告らとイオンマットや羽毛布団の販売に従事し、被告孝夫が本件事業を考案した当初より本件事業の計画及び実行に参画し、会計を担当し入出金を記録しており、金庫の鍵を所持し(被告孝之も所持していた。)、預金通帳を管理し入金を銀行へ預金し、実際の契約締結にも多数関与しており、また説明会場の選定、段取りについても担当してきた。

3(一) 以上認定のとおり、被告孝夫は本件商法の首謀者であり、選定者らに対し不法行為に基づく損害賠償義務を負うというべきである。

(二) 被告孝之と被告山脇については、以上認定の両被告と被告孝夫との関係並びに行動の一体性、本件事業における両被告の地位及び果たした役割からして、両被告とも本件事業の違法性について認識していたものと認められ、被告孝之は健友株式会社の代表取締役として、被告孝夫と共同で本件不法行為を実行してきたものであり、被告山脇は会計等としてそれを幇助したものであるので、いずれも選定者らの被った損害を賠償する義務があるというべきである。

六昭和五九年一一月一五日から昭和六〇年三月二六日までの間に選定者らが別表(一)記載のとおり金員を交付したこと及び請求原因5の事実は当事者間に争いがないから、選定者らの実質的な被害額は別表(三)記載のとおりとなるので、被告らは各自、不法行為に基づき、原告に対し、別表(三)記載のとおりの損害金の内金七〇〇〇万円及びこれに対する不法行為の後である昭和六〇年五月二四日(訴状送達の翌日)から各支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

七よって、原告の請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官中田耕三 裁判官土屋哲夫 裁判官下野恭裕)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例